header-bg-ph
Homeホーム > コラム > 学びのデザイン > アナログかデジタルかという問いを越えた先に広がる、学びの本質

アナログかデジタルかという問いを越えた先に広がる、学びの本質

GIGAスクール構想が本格的に動きはじめて5年以上。子どもたち一人ひとりに端末が行き渡り、学校のICT環境は大きく様変わりしました。この変化は、日本の教育にとって非常に大きな一歩です。しかし、その裏側で、効果測定の目標が「端末を使うこと」になっているケースを多く目にします。

だからこそ私は、テクノロジーを「ただ使う」のではなく、「意識して使う」という考え方が重要だと、教育の現場に関わるたびに感じてきました。

本記事では、カナダで積んだ15年以上の教育現場経験、テクノロジー企業で勤務した経験から、日本の端末活用の現状と、テクノロジーの学び場でのあり方について、日ごろ考えていることをお伝えいたします。

「使用時間」が評価指標になっている現実

GIGAスクール構想には、莫大な国家予算が投じられています。端末の整備はもちろん、通信環境や管理システムへの投資も含めると、その額はさらに大きくなります。

本来であれば、端末の導入によって学びがどれだけ深まったのか、学びの質や学習到達度を指標として、その効果を測れるはずです。しかし現状は、「1日に何分端末を使用したか」という指標が広く取り入れられています。測定のしやすさから、活用状況の報告に用いられているとすれば、それは大変残念なことです。

端末の使用時間に注目が集まり、評価につながる環境になると、現場の先生方にも影響が及びます。本心では「この授業では使わない方がよい」と判断していても「使わなければ」という意識から無理に端末を使ってしまうケースが出てきます。実際に、使用時間の報告が理由で、本来届けるべき学び、子どもたちに必要な学びが十分に提供されていないケースが生じています。

これは、子どもたちにとっても先生たちにとっても、健全とはいえない環境です。子どもたちの未来を豊かに育むなら、端末を使った時間ではなく、その時、現場で何が起きていたのかを大切にするべきでは? と私は考えます。

カナダの教室で実践してきた「端末を閉じた」学習

私はこれまで、テクノロジーを取り入れた教育に、長く携わってきました。そのため「ICT一辺倒な人間に違いない」と思われがちなのですが、実際はまったく逆のタイプです。

カナダで教員をしていた頃、私は「今は端末を使わない」という判断を大切にしていました。たとえば、粘土をこねて立体を感じる時間、グループで声を出し合い、考えを構築する対話の場面、身体を動かしながら概念を体感する活動。実際に外に出て、植物に触れ、地域の様子を目で、耳で、身体全体で感じ取る時間、このような学習機会に端末は必要ありません。

画面を通してでは決して触れられない、リアルな体験が、子どもたちの学びの土台になります。画面を閉じていたからこそ、子どもたちの集中力や没入感が深まっていく様子を、何度も目にしてきました。

算数の授業では、大きな模造紙をテーブルに広げ、子どもたちにマーカーを持たせて問題に取り組む、という時間を日常的に取り入れていました。頭を使い、手を動かし、違うと思ったらクロスアウトしてまた考える。この作業を繰り返すと、手の動きとともに思考が形になっていきます。

マーカーで書いた文字は消えないため、どのように考え、どこで詰まって、どう気づいたのか、すべてのプロセスが紙の上に残ります。自分の軌跡を振り返りながら、仲間たちの考えと比べ、対話が生まれていく。これは、テクノロジーでは再現が難しい学びの形です。子どもたちが「Why?」「How?」「What if?」と自分の口で問いを立てはじめる、深い学びの時間が、たくさん生まれていきました。

一方で、テクノロジーがあったからこそ実現できた学びも、たくさんあります。とくに印象に残っているのが、特別支援学級での経験です。

その教室では、子どもたちの多くが、読み書きに困難を抱えていました。そこで、テキスト読み上げや音声入力機能を活用した結果、自分の考えをはじめて言葉にできる体験につながりました。

これまでは叶わなかった、思いや考えを形にできた瞬間。そのときの子どもたちの表情は、今でも忘れられません。この経験からも、テクノロジーが「学びの扉を開く」というのは、たしかな事実だと考えています。

大切なのは、アナログが良い、デジタルが良い、という話題に終始しないこと。学びの目的と、目の前の子どもたちの状況に応じて、この場面ではどちらを選ぶべきなのか、教える側が意識的に選択し続けることが大切だと、長年の経験から実感しています。

「intentional(意図的)な活用ができているか」を問う習慣

テクノロジーが持つ本来の力を引き出すには、「なぜ今、これを使うのか」という問いが必要です。英語では”intentional use”と表現しますが、日本語に訳するなら「意図的な活用」でしょうか。

意図的な活用を実現するため、私は授業や学習活動を設計する際に「この時間に何を学んでほしいのか」をまず考えます。その後、その時間の学びにたいして「テクノロジーを導入した方が、学びの効果がより発揮されるのか、それともアナログの方が深まるのか」という問いを、習慣的に持つようにしています。

この問いがある授業とない授業では、子どもたちの学びの質が大きく変わります。

テクノロジーが得意としているのは、シミュレーションやインタラクティブなツールを使うことで、教科書の図だけでは伝わりにくい概念を視覚的・体感的に理解できる場面。世界中の人とリアルタイムでつながり、教室外にある現実と学びが接続される場面。データを収集・分析して、自分たちの問いにたいする根拠を持って、答えを導き出す場面などです。

また、テクノロジーは、すべての子どもたちに表現の幅を広げる機会をもたらします。ポッドキャストの制作、動画の撮影・編集、音楽づくり、デジタルコラージュの制作といった活動を通して、ペーパーテストやワークシートでは見えてこなかった一人ひとりの理解や知識を形にする、新たな可能性が広がります。

「テクノロジーを活用した方が、より学びが深まる」「アナログの方が、この力が育つ」という判断を、授業のたびに意識して積み重ねると、教室の文化がじわじわと変わっていくはずです。

さらに、学びの壁を取り払っていく、アクセシビリティという観点も欠かせません。これまで、学びにアクセスしづらかった子どもたちにとって、テクノロジーは単なる「便利な道具」ではなく、学びへの参加を可能にする貴重な手段です。

意図的な活用は、こうした多様な子どもたちのニーズを見据えた設計でもあります。「なぜ使うか」という問いを、教育現場の文化として根付かせていくこと。先を見据えた実践を、GIGAスクール構想の次のステップとして、皆さんと一緒に積み重ねていければ嬉しく思います。

「意図的に活用する」文化を、現場に根付かせるために

テクノロジーを意図的に活用する文化は、一朝一夕では育ちません。端末の操作スキルを身につけることと「なぜ使うのか」を問う習慣を持つことは、まったく別のところにあるからです。

前者は、端末に触れる時間を増やしたり、取り扱い方を学んだりといった行動で、スキルを向上できます。しかし後者は、教員研修のあり方や、学校・組織としての学びのデザインが深く関係しています。

GIGAスクール構想がもたらしたのは、そこにテクノロジーがあるというインフラの整備です。そこから一歩踏み出して「なぜ使うのか」という問いを現場で持ち続けるためにも、学びのデザインそのものへのアプローチが重要だと感じています。

ULDは、学校や教育機関の皆さまと一緒に、教育現場での「意図的な活用」について、ともに考え、ともに実現していく存在でありたいと思っています。

私たちは、テクノロジーがどのような場面で、どのような意図を持って使われているのか、また使われるべきなのか。学習体験の設計やコンテンツ制作という面から、エドテックサービスや教育系プラットフォームを提供している企業の皆さまのサポートや連携をすでにはじめています。

優れたテクノロジーが、優れた学びの場で正しく力を発揮できるように、その接点をともに設計していくこと。それこそが、ULDの目指すパートナーシップのひとつの形です。

テクノロジーは道具です。大切なのは、その道具を手にしたとき、「なぜ今、これを使うのか」と問えるかどうかです。その問いの先に、アナログかデジタルかを越えた、豊かな学びの世界が広がっていくと信じています。GIGAスクール構想の着地点が、そのような場につながるように、ともに歩んでいきましょう。

共有する

著者について

15年以上の欧米での教職経験と、Appleでの4年間にわたる教育者向けプログラムの日本展開統括を経て、Unfold Learning Design(ULD)を設立。教育プログラムが本来持つ革新性と教育的意図を守りながら、文化や教育環境をまたいだ橋渡しを実践しています。このコラムでは、教育ローカライゼーションや学習デザインをめぐる考察を、実際の経験をもとにお届けします。

堤 友也(つつみ ともや)

教育インテグレーションデザイナー

メールマガジン登録

教育と学びに関する考察や最新情報を定期的にお届けします。ぜひご登録ください。

note

教育と学びに関する時事トピックや考察を、ULDの視点からお伝えしています。

堤 友也(つつみ ともや)

教育インテグレーションデザイナー

メールマガジン登録

教育と学びに関する考察や最新情報を定期的にお届けします。ぜひご登録ください。

note

教育と学びに関する時事トピックや考察を、ULDの視点からお伝えしています。

最近の投稿

Sorry, no content found.

メールマガジン登録

教育と学びに関する私たちの取り組みや最新情報をお届けします。ぜひご登録ください。
必須

「学びを根付かせる」教育を、一緒に実現しませんか?

プログラムが持つ教育的価値を守りながら、導入する先の教育環境に確かに届く形へと再設計します。まずはお気軽にご相談ください。

Get in touchお問い合わせ
Close閉じる